霊音巣 事変の巻4
霊音巣 燕狩り事変4
―深い霧の中で
音静は皿の上に茶菓子を詰め、卓袱台に置く。他の町と関わりを持っていないという事だが、これは本当なのだろうか。あまりにも普通過ぎている気がする。
「私は空想の世界のことを期待してるのかな」
「何か言ったかしら」
いえ別に。そう首を振る。何を期待しているんだ私は。
「で、大蛇が仕事に行ったからあたしが町のことを教えるけど・・・何か疑問はある?」
「うんと・・・・」いざ考えると答えが出ない。
「そうねぇ~外に出る?ずっと中にいたから頭回らないのかもよ」
「そうかも」
「行きましょっか」ドアを開ける。暫く外に出ていなかったな。風が髪を撫で、吹き去っていく。空高く鳶が高らかに鳴き声を上げ、円を描く。視界が一気に開き、家々が並ぶ光景が眼に入る。
深呼吸をしていると肩を後ろから突かれる。振り向くと男性が立っている。いや、少年かもしれない。
「この子は朧月也赫懺(おぼろつきなりかくざん)。大蛇の弟よ」
「家の兄がいつも世話になってるな。兄は優しくなった気がするんだ。ありがとう。僕は朧と呼んでいいよ。名前は聞いてるから」
「はい」
って・・・・「大蛇は・・・男!?」
「そうだが。聞いていなかったのか?見かけで人は決めるんじゃないよ」
知らなかったぞ・・・・・あまりに女性過ぎるからつい女だと思っていた。
「あとはよろしくね~朧ちゃ~ん」音静はいつの間にか神社の中にいて陽気に手を振っている。
「え!!」
「大丈夫。何もしないよ」
「いやいやそういう意味じゃなくって!何あの態度は!いつの間に!」
「あいつは責任感ない奴だから」
「それでいいの・・・」
「いいの」
思わずため息が出る。異性と行動する事は昔から慣れているのでそんなに心配は無いが。音静は勝手だなぁ。なんて考える。いいことで言えば気ままなんだろうか。
朧が音静の後姿を見送る。中に入ったのと同時に話す。
「あいつも忙しいんだよ。兄貴と一緒で」
あれ、さっきは「兄」と言っていたけど。まあいいか。
「朧は名前長いんだね。私は日ヶ南真純だよ。ごく普通でしょ?」
「朧は名前ではないんだけどね」
「じゃあ何?」
「朧月也は苗字。赫懺は名前」
「へぇ~」
「いつも朧って言われているから普段は朧」
「そうなんだ」
「でさ、真純。兄貴がどこに行ったのか分かる?」
「分かんないよ」
「そう・・・ならいい」
「どうかしたの」
「別になんでもないよ。これからもよろしく」朧は私の手を握る。私は男子と関わることにはやはり慣れているようだ。恥ずかしくもなんとも無い。
「真純。お前ここから逃げたほうがいい」耳元でこう囁かれた。確かにこう聞こえたのだ。
「なんで・・・・」
「いいか?落ち着いて聞け。兄貴はお前を殺そうとしている・・・・・・・ううん。お前だけじゃない。山に迷い込んだ人間を全員殺してるんだ。真純に信頼されるように善い人を装っているんだ!」
大蛇が私を・・・・?じゃあ、突然いなくなった沙雪も潤南も透刃は・・・・殺された!?
「大蛇は私に優しくしてくれたのに・・・」
「僕の前では違う」
そっそんなはずない!!大蛇が何かを隠しているようには見えない・・・見えない・・・・見え・・・・
「・・・・る・・・でしょ・・・?」
「そっ!そんなはず無いんだから・・・・!・・・・大体出会って間もないのに何でそんなこと!」
「今日真純が殺されるから警告した」
「バカ!」
バシッと顔を殴る。
「何度でも殴りなよ。本当のことだから。ほら・・・・帰ってきた。人を殺して」
大蛇は私を見つけたようで、笑顔で近づいてくる。
「朧来てたんだね」
朧はキツイ眼つきで睨む。そんな朧を他所に。
「帰りましょう。真純さん」
「・・・・・」
「どうかしましたか」
「・・・・・」
私は大蛇から眼を逸らし、振り返り、早歩きで歩く。後ろは振り返らなかった。なんなんだよ・・・・そんなの嘘に決まってるのに。そう思っているのに私は疑ってしまう。私は醜い・・・・
「あっ待ってよ真純!」朧が駆け出そうとする。一歩踏み出した瞬間、視界に燕が飛び込んできた。
「朧・・・・秘密を吐いたね」
「兄貴もうこれ以上やめろ!復讐なんて何の意味があるんだ!」
「貴方には分からない事・・・・人間はこの世からいなくなればいい。なぜ人間は差別をするか。・・・・私は人間じゃないのか?ただ他人の持たない能力があるのになぜ差別されるのだ?」
「兄貴っ!いい加減目覚めてくれ!」
「なぜ人間は見かけで人は決めるのか。なぜだ。なぜなんだ」
「もういい!分かったから言わないでくれ!憎んでどうなるんだよ・・・・・」
「・・・分かった。2度と言わない。もうじき1人の人間が死ぬ。じっくりじっくり人間が消えればいいから・・・・・」
フッと笑みを浮かべ、神社へと歩いていく。燕があとを追って飛んでいく。
「・・・人間はそういう生き物なんだから・・・それにすべての人間が憎みあう訳ではない。差別はすべての人間がするわけではない!」
駄目だ。兄貴は完全に怒れてしまっている。前に苛められた経験があったからってそんなこと・・・
「ごめん真純。こんな事会ったばかりなのに言って。この辿高は霊が住む場所・・・霊が人間を引きずり込もうとしている。兄貴はその1人だ」
僕はここでは終わらせない。兄が暴れているからってこれでいいことにしない!したくない!
「真純を探さないと・・・・本当あの女は気が強いんだから」
真純が行った道を駆け出す・・・
「真純ー!こんなところにいたの?さっき大蛇帰ってきたわよ~」
「音静・・・・」
なぜだろう。音静まで疑ってしまう・・・・怖くて怖くて後ずさりをする。
「何よその眼は~」優しい口調が大蛇と同じ、恐ろしい。
「ねえ・・・・大蛇って何者なの。私の前では優しい不利をして私以外のところでは悪意働かしているの?何者なんだよ!大体どうしてこんな山中に町なんてあるの!迷い込んで弱った人間に優しくして、そして殺そうとしているの?どうしてこんな事してるんだよ!答えて!音静は知ってるんでしょう?」
はっと我に返ると、音静の胸座を掴んでいた。じっと睨む。
「・・・・ごめんね真純・・・・・誰が悪いとか、そういう問題ではないの。みんなみんな悪いのよ。大蛇も周りの人間も・・・」
「何があったの・・・・・一体辿高町はなんの訳があるんだよ・・・・・」
「あのね。これは彼が貴女と同じ年頃の時の話なんだけど・・・・」
「え・・・・大蛇は私より年下じゃないの?」
「全部・・・・・全部嘘よ」
「えっ・・・・・」
ごくりと唾を飲む。何もかも信じられなくなってしまった。音静はゆっくりと語り始める・・・・・・・
大蛇の本名は「稲賀彗蓮(いながすいれん)」女性ではないが、女性のように肌が白く髪が長く、美しい顔立ちと誰をも魅了するスタイルから尊敬されていた・・・・・のではなく、強い差別をされていた。”オカマ”とからかわれていたのだ。それだけではない。彗蓮は鳥が好きで、よく鳥からも好かれていた。ぐったり倒れている鳥を触るとその鳥が蘇ったように空へ飛び立つのだ。このことを1人に見られ、2人に広まり4人に、8人に、16人に・・・・・留まることなく広まった。全校だけではない。地域からも強い差別を受けた。
彼は苦しんだ。人間という人間に眼を遠ざかれたのだから。見方だと思っていた人間がみな敵にまわったのだから・・・・
ついに・・・・・
始動する
彗蓮の世の中への復讐が
だが無力だった
彼1人では無理だったのだ
我に返った瞬間、血を流して倒れていた。ベランダから誰かが覗いている。何秒か自分を見ていたが、すぐに教室へ戻ってしまった。
そのまま意識が途絶えてしまった・・・・・・
「・・・・・・どうしよう・・・・・・・大蛇の事無視しちゃった・・・・・・どうしよう・・・!!」
「そんなに興奮しないで。落ち着いて」
「どうしよう!」
「落ち着いて真純。焦っても何も変わらないわ・・・・・大蛇は駄目なの。止めることが出来ないの・・・・・」
「じゃあどうすれば!」
「どうにも出来ないわ・・・・」
どうして・・・・・どうしてこんなことが・・・・・?汗が流れる。頭の中が混乱する。
そのときハッとした。
音静の後ろに大蛇が縄を持って立っている。
「音・・・・静・・・・・?」
「貴女はもう知ってしまったんですね」
ガッと首に縄をかける「でもいいのです」
「大蛇・・・・・」キッと睨みつける。
フ・・・・と怪しい笑みを浮かべる大蛇。
「うっ・・・ああああぁぁっ!」声にならない声を上げる。
「もう止めてよ!あの優しい大蛇はどこに行ったの!?」
「私は優しくなんかありません。そう・・・・・身勝手に自殺をしただけ・・・・神から授かった命を自ら捨てた・・・・」
「大蛇は優しいよ!私に丁寧に教えてくれた・・・それに神様の事強く思っている」
「貴女だけに優しくしている訳ではありません。特別だと思わないでくださいよ」
ギリギリと首を締め付ける力が強くなる。音静は白めになっている。大蛇が縄をシュッと外すと、音静はその場に倒れてしまった。
「なっ・・・・」
「真純さん・・・・怨むなら自分の運命を怨んでください」
私は後ずさりをする。だが背後には・・・・また崖が・・・・・・
「うっ・・・!!」
早業と言えるだろう。縄をかける速さは眼に留まらず、締める力が増していく。
「みんなみんな死ねばいい・・・・・苦しんで苦しんで死んでいけばいい・・・・・永遠の眠りにつけ」
だっ・・・・駄目だ!息が出来ない・・・・・!
薄っすら眼を開け、大蛇の顔を見る。人の心には善と悪があるが、こんなにも変わってしまうのだろうか。
出来ればこんな事になって欲しくなかった。
「なっ・・・なん・・・で・・・・っ!」
私が勝手に逃げ出したから・・・・怖くなったから逃げ出したから・・・・・大蛇がどんな思いか分からない。でも絶対に楽しくなんか無いと思う。
勝手な行動をしてしまって、大蛇を悲しい気持ちにさせてしまったのかもしれない。余計に発狂させてしまったのかもしれない。ごめんね・・・・大蛇は人間なのに。鳥の好きな人間なのに。不思議な能力を持った凄い人間なのに・・・ごめん。
何かを考えている暇なんて無くなった。苦しくなり、息が出来なくなる。
うっ・・・・・ううぅぅっ・・・
鳥の歌声。木の葉と葉が重なり合い、音を鳴らす。優しい風が私の体を撫で、眼を開けろ。と、起こさせる。すぅっと空気を吸った・・・・どこかで覚えているこの風の感触。
木漏れ日が眩しい。眩しさに耐え切れず、眼を開ける。青い空が葉の間から見える。
「あれっここは・・・・・」
地面がひんやりと冷たい。ここは森?
立ち上がって前を見る。木が何本も並ぶ景色順番は決まっていないが、神秘的な光景だ。心が落ち着く。鳥のさえずりがどこからか聞こえる。
「森だ!・・・でもなんで?」
どうしても前の事が思い出せない。思い出そうとすると頭痛が走るのだ。立ち止まっていてもしょうがないので、歩くことにする。進めば進むほど緑色の景色が眼に映る。空気が美味しい。都会とはまったく違う。
「んっ」
突然強い光が差す。光が和らいできて前を見ると・・・・
「え」
なんと・・・・
村が広がっていたのだ。
<あとがき>
完結した・・・?と思わないでくださいよ~!
実はまだまだ続くんです
今回「事変の巻」の燕狩り事変が終わりました
どうしても残酷なストーリーになってしまうんですが
どうだったでしょうか?
次のストーリー(第2部)はもう少し待っていただけると幸いです
考え付いた時に更新するので
いつになるかは定かではないんですが・・・
気長に待っていただけると嬉しいです
では、お休みなさいませ
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コメント
仕事中だというのに、思わず読みいってしまいました。
次回、また期待していますね。
投稿: 964 | 2008.11.21 12:47
964さんへ
次回はいつになるか分かりませんが
考え付いたら更新しようと思っています
また読みに来てくださいね
投稿: 咲夜 | 2008.11.21 16:11